天の神様にも内緒の 笹の葉陰で


   
“夏色のキミとボク”



すったもんだの七夕は、
台風8号の襲来で全国的にとんでもない風雨により大荒れとなったが。
某所で日取り的には前倒しで催された七夕イベントは、
結構なにぎわいの中、どの企画も上々の評判を得て幕を下ろした。
縁日みたいな出店や屋台も数々出たし、
商店街の真ん中に設けられた、本格的な流しそうめんも盛況で。
ステージを設けて開催された“織姫様コンテスト”には
浴衣美人が数多登場して会場を沸かせ、
エスコート役のイケメンたち目当ての女性の観客も多くて
主催が思ってた以上の入りと賑やかさとなったほど。
そしてそして、メインイベントとも言えた企画、
豪華賞品を探す“お宝探し”大会は、
昼の部と夕方の部のそれぞれが、
多くの参加者の奮闘の数々に終始し。
大きな混乱もなく、むしろ見せ場満載で。
結果として それは楽しかった催しとして、
ちょっとした伝説のごとく、しばらく語り草となったほど。

 「そういや、ブッダさんも彦星役で出ていたねぇ。」
 「あ、えと、はい。/////////」

十代二十代中心の浴衣美人コンテストは、
エスコート役を指名していいという添え書きのせいでか、
実行委員会が想定していた以上に応募があったらしく。
しかもその彦星さんたちをこそ観に来たうら若い女性の観客も多く、
なかなかに華やかな大会となったそうで。

 「何人か手を引いてやってたよね。」
 「あれってリクエストとやらがあったからなんだろう?」
 「いやいや 隅に置けないねぇ。」

表の温気とはまた別口、
湿気も多いが それでもどこかホッとするよな温みの籠もる場所。
セッケンと湯の香りの満ちる脱衣場で、
顔なじみのおじさんたちから、冷やかし半分にそんなお声をかけられて。
いやえっとぉ…なんて少々まごまごと照れながら、
それでも、忘れ物はないか散らかしてはないかを見回してから、
お先に失礼しますと番台横の出入り口へとそそくさ向かう。
女性たちからのご指名があったというのは本当で、
イエスと共に、それぞれが2人ずつ、
舞台袖から中央まで、手を引いてエスコートする係を割り振られ。
企画倒れとならぬよう、
応募が少なかったら出る所存だった
既婚者の皆様を煩わせずに済んだものの、

 『あらやだ、
  イエスちゃんが出るんなら正式に応募すればよかったvv』
 『ホントねぇ。』
 『あたしはブッダさんがいいなぁ、頼りになりそでvv』

意外や女将さんたちからもウケのいいお二人だったことも露見して。(笑)
そして彼らにとってのメインイベントだった“お宝探し”では、
ブッダが密かに目当てとしていた
お買い物券やお米券は残念ながらゲット出来なかったが、
それでも一念が通じたものか、

 『おお、これは…。』
 『何なに? わあ、ハー○ンダッツのギフト券だってvv』

1枚でミニカップ2個もらえるギフト券が六枚綴りとなったセットと、
参加賞のクオカードがもらえたのだが、
そのクオカードがまた、
イエスの知り合いに言わせると その筋の随分とレアな逸品だったらしく。
そこいらの金券ショップではなくて、
アイドル系に通じているお店へ持っていきなさいと勧められ。
後日についでで行ってみたところ、
額面の10倍なんていう高額買い取りされちゃった余禄もついたそうだが、
ままそれはさておくとして。

 「…いえす?」

台風が去ってからも結構な大雨や雷雨に翻弄され、
それらを置き土産に梅雨が明けた途端、
今度は昨年を彷彿とさせるよな酷暑の夏がやって来て。
町内会の毎月の決まりごとだった大掃除と草むしりも、
この暑さの中では倒れる人が出かねないからと
急遽中止になったほどであり。

 『確かに、質量を感じるほどの暑さだものね。』
 『木陰へ入っても逃げられないレベルだものね。』

インタビューされて
“歩いたまま風呂に浸かってるような”と言ってた人がいたよ。
あ、そんな感じかもね、
頭だけとか出てるトコだけじゃなくて、
全身の至るところが じわんと暑いもの、と。
日本人でも辟易する蒸し暑さに打ち負かされかけつつも、
これもまた話のネタになろうことと解釈してか、
くすすと苦笑って享受している最聖のお二人で。
お買い物は朝のうち、
昼の間は用がないなら家にいて、
次のお出掛けは何処にしよっかなんて、
PCやスマホのアプリであれこれ調べてみたりして過ごして。
夕飯前にお風呂へ行くのは、もはやお決まりの習慣で、
今日も今日とて、
一日分の汗を流しにと足を運んだ銭湯から
遅ればせながら出て来たブッダが表を見回せば、

 「…だったんだから。」
 「そうなんだ。それは大変だったねぇ。」

さほど車の通行もなく、ほぼ生活道路のような中通りの、
少しほど先へと進んだ自販機の傍で。
通りすがりだろう、女子高生くらいの少女ら2、3人と、
何やら話し込んでいるロン毛の君が見える。
癖のある濃色の髪を腰近くまで伸ばし、
口許と顎に髭もあるよな男衆だが、不思議とむさ苦しくはなく。
朗らかに笑ったりするお顔の屈託のなさは格別で、

 “つい話しかけたくなるのも判らなくはないものなぁ…。”

てれんとした薄い素材だが案外と丈夫な、
着替えとお風呂用品を入れた化繊のトートバッグを提げたブッダが、
帰宅方向でもあるそちらへ歩みを運びかかると、
向こうからも気づいたか、じゃあねとあっさり話を打ち切り、

 「ブッダ♪」

たかたかと歩み寄って来る神の子様で。
置き去りにされた格好のお嬢さんたちが
“ああん”という名残惜しげなお顔になったが、
それへといちいち罪悪感を感じることもなければ、

 「電話、何だったの?」
 「それがさ、」

お風呂から上がったところで イエスのスマホに掛かって来た通話があって。
弟子の誰かや大天使、マリア様と言った身内でもないらしい相手とあって
髪を乾かすのもそこそこ、外へ出て行った彼だったものの、

 「オフ会の予定変更のお知らせだったの。
  メールでもよかったのにね。何事かって思うじゃない。」

あっさり答えてくれたのへ、
さばさばと訊いてよかったと、
こっそり胸のうちで安堵することも
そろそろ無くなりつつあるブッダ様であり。
とはいえ、

 「…ブッダ、実は怒ってなぁい?」
 「え? なんで?」

色違いで柄も微妙に違うが、同じメーカーの同じ大きさ同じ素材。
そんな格好でお揃いのトートバッグをそちらも提げているイエスが、
こそっとした声で、だからこそ やや身を寄せて訊いて来て。

 「だって、あの…。」

イエスがついついお喋りしていたお嬢さんたちは、
本当にただ通りすがっただけではあるが、
後から出て来たブッダにしてみりゃ、
ちょっと目を離した隙に…という光景でもあっただろ。
元王族という半端じゃあない偏りようながら、
それでも人生経験も豊富で しっかり者なブッダではあるけれど。
この類の件に関しては まだまだ経験値が浅く、
時々微妙な動揺も抱える彼だというの、
今更ながら思い出し、案じたらしいイエスだったのへ、

 「いちいちめげていたらキリがないでしょう?」

長めのまつげを軽く伏せ、ふふと小さく微笑ったブッダ様。
そのまま綺麗な手を胸元でくっと握ると、

 「私、もっと心の腹筋とか背筋とか鍛えなきゃって
  つくづくと思ったからね。」

 「ブッダ…。///////」

何だか比喩がよく判らないけど、(ホンマにな)
甘んじることなく まだまだ成長しなきゃあとする心掛けは偉いなぁと。
イエスが感動しきりという面持ちとなったものの、

 「でも、何かややこしい格好をしていたね。」
 「あれは今年の流行でビスチェっていうんだって。」

テレビで紹介されたのを観て、
ちょっとレトロな型のセパレーツの水着とか
思い起こしてしまったもーりんは、はっきりいって昭和の人です。(笑)
デコルテ丸出しだし、丈も短くてお腹がチラ見えするのは必至という、
どちらかと言えばリゾート着。
いかにも下着と同型のキャミが
なのに普段着格で路上にあふれてもいるくらいだから、
今時は本当に若い女性たちの方が大胆でもあって。

 「…やっぱり気になった?」
 「いや あのその。///////」

目の遣り場に困るというか…と、
純粋に大胆な女性への羞恥を口にしたブッダなのへ、
ありゃまあと玻璃色した眸を瞬かせたイエス、

 「あの子たちにすりゃ、あれはただの普段着らしいよ。」

気張ったおめかしじゃあないから安心してとでも言いたいか、

 「本命の人の前だと
  こんなはしたないカッコしてちゃ逢えないよぉって
  隠れちゃうんだって。」

そういう話もするらしいところから察しても、
やっぱり異性扱いはされてないらしいイエスだが、

 「…私、イエスの前でいつも普段着だけど。」

だとしたら、私もイエスを本命視してないことにならないかと、
今度は恋情という感覚じゃあなく、理屈に引っ掛かったらしい聡明なお人へ、

 「それはだって、私たちもう告白し合ってるし。」

既に一つ屋根の下に一緒に暮らしていて、何を取り繕う必要があるのと、
もうもうヤダなぁと笑みを深くしたものの、
ふと…表情を引き締めると、

 「それに、これ以上 綺麗になってどうするの。
  おい、あの神々しい人は誰なんだなんて、
  いろんな筋から噂になってしまったら、私どーすればいいの。」

 「ごめんごめん。」

いろんな筋からってどういう意味だろと思いつつ、(ホンマにな)
そうだった、イエスの側も内心ではそういう心配してくれてたんだと、
今更ながらに思い出し。
ブッダが 性懲りもないのはお互い様だったと苦笑しかかるのも、
一頃に比すれば結構な進歩。
イエスがうっすら案じたように、
実はまだまだ筋トレ中(?)なので、
あんな愛らしい格好のお嬢さんたちが相手じゃあ、
野暮ったい風体の自分なんて勝ち目ないなぁなんて。
思わないでもないでもなかったのだけど。(…どっちだ)

 “そうだよね、
  毎朝困ったような顔して寝てるイエスなんだし…。////////”

相変わらず、ジョギングに出掛けるべく毎朝早起きしているブッダ様。
さすがに、窓を開けて風を入れの、
掛け布団もタオルケットに替えのといった真夏対策はしているし、
まだ今のところは熱帯夜も訪れてはないものの、

  あのその えっとね?/////////

たとえば昨夜なんかも、
甘く口づけしてくれてから、
そのせいでほどけてしまった髪を梳いてもらいつつ。
この優しい玻璃の眼差しで見つめられながら寝入ったブッダだったのを、
そのまま ぎゅうと懐ろに入れて寝たらしいイエスだったよで。
寝苦しかったろうに、離してくれていいんだよって
いつぞやわざわざ言ったこともあるのにね。
そしたら、イエスってば、

 『そんな勿体ないこと出来るワケないじゃないっ。』
 『えっとぉ…。///////』

頼もしいその手をぐっと握って言い切った彼だったのが、
どうしてだろか
言い諭していたはずのブッダをキュンvvとさせた理不尽さよ。

 「お腹空いちゃった、早く帰ろvv」

 「うんvv」

夏の日没後は、何とも明るい宵が結構いつまでも続くもの。
秋や初冬の、スペクタクルで寂寥に満ちた黄昏とは随分と違い、
ざわざわした感触のする まだまだ明るい薄暮の中。
仲良く並んでおウチへ帰る、
相変わらずにいい雰囲気の最聖のお二人だったのでありました。





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 *こちらではふざけるなという酷暑&熱帯夜が続いております。
  凄まじい雷雨が襲い来て、
  冠水したり停電になるのも困りものでしょうね。
  とりあえず、夏が来たなぁという1週間だったということで。

  というわけで、ほぼ1週間振りのUPでございますね。
  書きたいものが一杯で、うずうずしていたのですが、
  いかんせん 時間がない、体力もない、しかもこの暑さと来て
  じっと我慢の子でおりました。
  もちょっと続きがあります。
  すぐ書ければ いんですが…。(笑)

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